書評:ベネズエラ報道はなぜこんなに酷いのか

  • 2019.03.02 Saturday
  • 16:05

ベネズエラ大使館から、アラン・マクロードの著書「ベネズエラからの邪悪なニュース」(Bad News From Venezuela)の書評「ベネズエラ報道はなぜこんなに酷いのか」(Why Venezuela Reporting Is So Bad)翻訳の案内をいただきました。「(西側メディアは)編集局の予算を大幅に削減しようとして、ベネズエラ現地のストリンガー(通信員)への記事依存を招いている。ベネズエラ政府に極めて敵対的で、野党勢力と連携する新聞社から地元ジャーナリストがストリンガー(通信員)として採用されると、ベネズエラの野党勢力の意見や主張は誇張されていくことになる。反政府活動を行う人たちは西側メディアに客観的と思わせるニュース内容を提供する。」など、ベネズエラに関するメディアの報道の問題点が指摘されています。ブログで紹介します。

ベネズエラ報道はなぜこんなに酷いのか--アラン・マクロードの著書「ベネズエラからの邪悪なニュース」の書評 ジョー・エメルスバーガー 

米国政府はこの20年近く、ベネズエラの政府を転覆しようとしてきた。さらに南北アメリカ及びヨーロッパの至る所の主流メディア機関(国営メディア、企業メディア及び幾つかの非営利メディア)は米国政府のベネズエラ政権転覆の企てを手助けしようと全力を挙げてきた。

 過去20年間、この動きに対する例外中の例外となったのが、ALBAブロック(米州ボリバル同盟加盟国)のように、ベネズエラに敵対的ではない幾つかの国の国営メディアである。VenezuelAnalysis.comのような小規模な独立メディアも異なった視点からさまざまなニュースを提供した。米国や英国の主流メディアは、ベネズエラの民主的に選出された政府を擁護するどころか、サウジアラビアの独裁政権の方をずっと擁護しがちである。いずれの形にせよベネズエラの政権を擁護すれば悪口と嘲りを引き起こすことになる。従って、アラン・マクロードとその著書「ベネズエラからの邪悪なニュース:偽のニュースと虚報の20年 Bad News From Venezuela: Twenty Years of Fake News and Misreportingを出版したラウトレッジ社はどちらも極めて高い称賛に値する。この出版には本物の政治的勇気が要った。(明かしておくと、マクロードは、筆者と同じく、FAIR.orgの寄稿者である)

マクロードのアプローチの仕方は、ウーゴ・チャベスが1998年に初めてベネズエラの大統領に選出されて以降、重要な節目となった時期に米国と英国の新聞に掲載されたベネズエラに関する501の記事(ニュース記事とオピニオン記事)を評価することだった。チャベスが2013年3月に死去し、副大統領だったマドゥーロが1ヵ月後に大統領に選出された。マドゥーロは2018年5月20日に任期6年の二期目の再選を果たした。マクロードの分析によると、ベネズエラへの関心がピークに達した時期は、チャベスが初めて大統領に選出された1998年、米国支援のクーデターでチャベスが大統領の座から短期間退去した2002年4月、チャベスが死去した2013年、さらには暴力を伴った野党勢力による抗議運動の起きた2014年だった。

 

マクロードの指摘では、ベネズエラの野党勢力への米国政府の資金援助は2002年のクーデター直前に急増し、クーデター以降再び増加した。ある外国の政府が米国の政権を暴力で排除するのに関与したグループに資金を提供し、訓練したことを認めたとすれば、この外国の政府は一体どうなるのか?(実際、米国の国務省監察総監室はベネズエラに関してこうしたと認めている。)

マクロードによると、米国のメディアは常に、厚かましくも事実に逆らい、クーデターへの米国の関与を陰謀論として扱い、とにかく米国の関与を議論することはめったになかった。マクロードが米国のメディアをサンプリングしたところ、米国がクーデターに関与した可能性もあると言及したのは抽出した記事の10%にすぎなかった。英国のメディアの場合、可能性にも言及したのは39%だった。しかし、マクロードによると、「ガーディアン紙だけが米国のクーデターへの関与には高い可能性があると報じた。」

 

筆者は定期的にベネズエラの新聞各紙を読み、ベネズエラに関するニュースや政治番組を視聴している。そのような者として、マクロードが西側メディアの偽ニュースや虚報について示した最も有力な証拠は1998年から 2014年までに西側メディアがベネズエラのメディアシステムをどう描いたかを示すこの図表であると考える。マクロードは抽出したサンプル記事の中でベネズエラのメディア状況を伝えた166の記事のうち100%がベネズエラのメディアを「当局に“封殺されて”いる」とみなされると分類している。つまり、それらは、チャベス及びマドゥーロ政権がメディアを支配するか、さもなければ実際に攻撃的な批判を封じ込めるため強制力を行使しているという異様な記事なのだ。

マクロードが抽出したようなサンプル記事を分類する際には、ほんの少し主観が絡んでくる。筆者自身長年にわたり米国と英国のベネズエラ報道を極めて丹念に読んできた。このため、マクロードが抽出したサンプル記事の中には(ベネズエラのジャーナリズムを)「当局に“封殺されて”いる」とみなしていないものもあるとけちをつけられる恐れのある記事が存在するのは確かだ。これを受け入れれば、多分、比率は95%に引き下げられることになる。それでも彼の結論がひどく非難されることにはならない。ぼう然とさせられるのは、西側のジャーナリストがベネズエラの新聞やテレビの報道内容を正確に伝えていると信頼されていないことである。テレビを視聴し、新聞を読んで、ベネズエラの政府が反政府勢力から絶えず激しく攻撃されているのに気付くのは非常に困難である。そのためには、経済学も難解な知識もまったく必要としない。過剰な党派性を排除し、最低限の誠実さがあれば十分なのだ。

カーターセンターは政府に批判的な人々がベネズエラの報道機関から排除されたとの偽のニュースを含め、ベネズエラ政府についての幾つかのとんでもない虚報に異議を唱えている、とマクロードは認める。だが、2002年のクーデター実行者たちがベネズエラの企業メディアに独裁体制を敷くのを手助けしてくれたと感謝してから1週間経た後(当時のカーターセンターの米国人ディレクター)ジェニファー・マッコイが(2002年4月18日)ニューヨークタイムズ紙にオピニオン記事を寄稿したことをマクロードは改めて教えてくれている。マッコイは、この記事の中で、「チャベス政権」が「抑制と均衡(拮抗)及び民衆の表現の自由というベネズエラの民主主義体制を脅かして」きたと主張した。ベネズエラの民主主義は「米国の同盟国」よりずっと高く評価できたのだ。この時期、カーターセンターは米国の他の機関と比べればとぴかっと光っていたかもしれない。だが、同センターは極めて卑劣な機関である。

マクロードは、エドワード・ハーマンとノーム・チョムスキーの共著「作られた同意:マスメディアの政治経済学、1988年刊(Manufacturing Consent: The Political Economy of the Mass Media、1988)」に依拠しながら、ベネズエラに関する報道がこのようにひどい状況に陥ってきた背景について構造的に分析している。企業ジャーナリストは、ほとんど例外なく、自分たちのメディア業界を常識に従って分析することを反射的に拒絶する。このため、チョムスキーとハーマンは、さまざまな良識に沿った問題を検証し、富裕層や権力者に役立つようにニュース報道を歪める“フィルター”を特定することにした。

事例を挙げると、誰が請求書を支払うかが問題となる。(言い換えれば、メディアとしての在り方が問題にされている。)企業メディアや広告に依存するメディアは、裕福なメディア企業所有者や多額の広告費を支払うメディア企業の顧客が抱える課題に役に立とうとしがちである。このようなメディアは通常、その社会や世界の見方が「作られた同意」と歩調を合わせることのできる人たちを雇い、彼らを昇進させることになる。こうすれば、高圧的に威嚇して論調を一定方向へ押し付ける必要がほとんどなくなる。

企業メディアはビジネス上のプレッシャーからもコストの削減へと駆り立てられる。このため、安上がりで、手軽に活用できる情報源として政府や大手企業の広報活動に依存する。権力側の情報源から疎遠になることによって、メディアは権力へアクセスする力を失くす。その代償は高く付く。そうなってしまえば、たとえメディアが激しい批判を次々に繰り出したところで、権力者たちは非難を上手くかわすことができるようになるからだ。

マクロードは、チョムスキーとハーマンが特定したおおまかな「フィルター」とは別に、ベネズエラ特有のフィルターについて次のように指摘した。

「(西側メディアは)編集局の予算を大幅に削減しようとして、ベネズエラ現地のストリンガー(通信員)への記事依存を招いている。ベネズエラ政府に極めて敵対的で、野党勢力と連携する新聞社から地元ジャーナリストがストリンガー(通信員)として採用されると、ベネズエラの野党勢力の意見や主張は誇張されていくことになる。反政府活動を行う人たちは西側メディアに客観的と思わせるニュース内容を提供する。」

マクロードはまた以下のように説明した。

ジャーナリストは圧倒的にカラカス東部の富裕層の居住するチャカオ地区に住んでいる…。犯罪に対する懸念からそこに住んでいるとはいえ、これによってジャーナリストは野党勢力の拠点であまりに多くの時間を仕事と余暇に費やしてしまうことになる。このような事情から、ジャーナリストには“誰も”がベネズエラ政府について否定的な見解を持っているように見えるのかもしれない。」

筆者は、ベネズエラに関する報道がなぜこんなにひどいのかを説明するに当たり、マクロードにもう一つの要因をもっと強く主張して欲しかったと思っている。それはジャーナリストが責任を問われないことだ。構造を分析してみれば、いつもは誠実なジャーナリストであっても偏った報道をしてしまう理由が分かる。しかしながら、反論され、評判を落とすことを心配する必要もなく、敵対者(ベネズエラ政府)について言いたい放題に言えることが不誠実さを助長している。もっと適切に指摘すれば、ベネズエラの場合、そのメディアの偏向はメディアの腐敗と呼ばれる恐れがある。

 マクロードからインタビューされた一人であり、元カラカス駐在のジャーナリスト、ギリッシュ・グプタは2015年、「ウーゴ・チャベスが1999年に初めて大統領に就任して以来、150万人のベネズエラ人が国外に移住した」(8月5日付ロイター記事)と書いた。グプタの記事によると、この人数は「移住についての論文や著作のある、カラカス在住の社会学者トマス・ペーズ」に依拠している。国連の人口統計では、この期間にベネズエラから退去したのは約32万人であり、ペーズの推定人数のほぼ5分の1である。

ペーズは激烈にチャベス支持者を攻撃している学者である。2002年のクーデターの際、彼はチャベスを短期間大統領の地位から退去させた独裁体制を歓迎した、ベネズエラの新聞に掲載された公開書簡(紙面の4分の1を占めた意見広告)に署名した。筆者はグプタに対し、 ペーズの移住人数がなぜそれほど信じ難いものになったのかを説明し、さらにペーズは中立な専門家と見なされるべきではないと電子メールした。これに対するグプタの回答は「もうあなたの電子メールを読むことはなかろう」であった。ペーズはそれ以降も、移住に関する中立な専門家として、ロイターニューヨークタイムズフィナンシャルタイムズにその発言を引用されている。

「企業ジャーナリストたちにとって、ベネズエラ政府は、実際のところ、情報源としてアクセスできないようになった」とマクロードは指摘している。だが、ベネズエラの独立系ジャーナリストたち、さらにはベネズエラ政府を草の根で支持している人たちにとっても、大抵の場合、同じ状況にある。筆者は一部たりともその実情を知るため、誠実であると思われたカラカスを拠点にするあるジャーナリストに他人を介さずに直接会おうとしてみた。面談にあたり筆者は、たとえ記者が事実に反した、読者にうけるのを狙った記事を書こうとしなかったとしても、編集者が偽のニュースに仕立て上げてしまう(あるいは編集者がもっぱら記事を改悪する)と想定した。言い換えれば、それは偽のニュースを書いていると記者たちを非難できないとの想定だった。

筆者にはマクロードはもっと辛らつにアプローチできたのではとの思いもある。だが彼の著書はメディアの腐敗に対し、簡潔かつ十分に検討して異議申し立てを行っている。メディアはベネズエラに「独裁」というラベルを貼ることに成功した。このため、ベネズエラは米国主導で経済的に首を絞められ、トランプ政権による軍事威嚇の標的にさえなってしまった。

翻訳:加治康男(独立ジャーナリスト)

出典:2018年6月27日付fair.org 掲載記事

Why Venezuela Reporting Is So Bad

Review of Alan MacLeod's Bad News From Venezuela

https://fair.org/home/why-venezuela-reporting-is-so-bad/

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